クリスタリン網膜症は網膜色素変性症の類縁疾患で、進行性の視力障害と視野狭窄を起こす病気です。2018年に発症のメカニズムが解明され、治療薬の開発が待たれるところです。
当院で2020年4月現在治療中の患者様について、症例を報告します。
病状
50代、女性。Y様 。東京都在住。
2009年頃から目の症状があり、長らくなんの病気かわからなかったのですが、2015年に遺伝子検査をおこなって、ようやく難病の「クリスタリン網膜症」と確定診断がなされました。
2019年の12月頃、視界にうすむらさき色のもやが見えるようになり、光視症、閃輝暗点が出たのち、2020年3月に右目の網膜剥離を起こしました。
現在、左目の中心と右目の外側に視野の欠けがあります。
また、網膜剥離以降、ひんぱんに閃輝暗点とうすむらさき色のもやが出現し、視界がふさがれてものが見づらいことが悩みです。ひんぱんというのはどのくらいの頻度かとおたずねしたところ、1日に1回や2回ではなく、複数回ということでした。
治療目標
今後網膜剥離を起こさないこと。右側の中心視野を守ること。そして閃輝暗点やもやの出現頻度を抑えることを目標に治療を開始しました。
大変めずらしいご病気かつ、難しい治療目標ではございますが、発症のメカニズムを考えると「閃輝暗点の頻度は比較的抑えられるかもしれません」とお話ししました。
治療方法
目の治療と同時に、閃輝暗点の対策として頭皮のツボにお灸を3か所おこないました。皮膚にじかに据えるお灸は熱いものですが、頭皮のツボにする場合は感覚が鈍く、じんわりしみいるようで心地よい刺激があります。
Y様は「熱いけど、そのあとすーっとします」とおっしゃっていました。
経過
初回の治療当日〜翌日の夜まで、あれほどひんぱんに現れていた閃輝暗点が現れなかったそうです。また、当日は手足の先まで温かく、体がポカポカしていたそうです。(初診:2021年2月)
2回目の治療後は、「視界が明るくなった気がします。閃輝暗点は治療の当日にも現れましたが、以前ほどの頻度ではなくなりました」
3回目、閃輝暗点やもやの頻度は以前より少なくなっている感じがする。今日は体調がよく、視界もすっきりしている。「気持ちの変化もあると思います」とお話ししてくださいました。
所感
この病気は遺伝性(常染色体劣性遺伝)の病気であり、大変デリケートな問題を含んでいます。
「ここに来ると、ゆっくりできるのと、病気の話ができるのでほっとします」とおっしゃっていただきました。
Y様の場合は、さいわい、ご主人の理解があってサポートが得られているとのことですが、周囲に同じ病気の人がいない中で、不安な気持ちを押し込め耐えていくのは並大抵のことではありません。
Y様の施術中は、類縁疾患である網膜色素変性症や他の網膜の病気の症例をお話ししたり、病院の情報ですとか、あるいはなにか気持ちがリラックスできるような話題を見つけてお話しすることにしています。
そのかいもあってか、週に1度のリラックスタイムを楽しみにお越しいただけているようです。
この記事の執筆までに7回の治療をおこない、症状は安定していますが、今後の視野検査の情報も踏まえ、現状に満足せずさらなる治療をおこなって参ります。